高校サッカー・いい仕事
私は自分の仕事に誇りが持てることが「いい仕事」だと思っています。
「いい仕事」とは人それぞれ価値観が違います。
お客さんの喜ぶ顔を見られるのが「いい仕事」だと思う人もいるでしょう。
自分の趣味を活かせるのが「いい仕事」だと思う人もいるでしょう。
自分を磨ける事のできる環境が「いい仕事」だと思う人もいるでしょう。
給料が高ければ「いい仕事」だと思う人もいるでしょう。
ラクしてお金をもらえるのが「いい仕事」だと思う人もいるでしょう。
残業が少ないのが「いい仕事」だと思う人もいるでしょう。
何を優先順位にするかであなたの仕事が決まり、 それに伴い、出会う人や、人生のパートナーすら変わってくることでしょう。
それはつまりあなたの人生そのものを左右するとも言えるのです。
5年前ですがリリー・フランキー氏は以下のようなことをお話しされています。
農業の発想は田んぼに稲を作り、農協に納めてお金をもらう。
これは仕事ではない。
生業だと言うんですね。
仕事というのは、あぜ道の草を抜いたり、まだ荒れているところを耕したり、 すぐにはお金にならないことをやること、つまり先のことのために働くこと。
結局、いい仕事をしている人というのは、生業ではなく、仕事をしている人だと思う。
食うだけのことでみんなが疲れ、休んで寝ているときに、起きて「仕事」ができるか。
無益の生産活動ができるか。
周りに何を言われても、烏合の衆にならずに頑張れるか。
自分もそういう人になりたいと思っています。
(「21世紀を働く」B-ingリクルート出版リリー・フランキー氏2011.5抜粋)
「なんでも鑑定団」の骨董屋「からくさ」店主の中島誠之助さんは「いい仕事してますね~」が決めセリフです。
このセリフがでると鑑定結果は高額になります。
陶芸家も書道家もサッカー選手も、そして食品スーパーのおばさんや掃除のおばさん、ラーメン屋のオヤジさん、学校の先生等、「いい仕事」をする方はやはり、周りに何を言われても、烏合の衆にならずに自身の仕事に誇りを持って無益の生産活動を楽しんでいる人達だと思います。
みなさん。
アカデミックスマート(Academic smart)という言葉を聞いた事がありますか?
簡単に言うと、小さいときから学業の成績をよくすることに時間を割き、与えられた仕事は時間内に完璧にこなし、高学歴で頭の良い人達のことだそうです。
その対義語としてストリートスマート(Street smart)なる言葉もあります。
名前の通り街中で育ったということで、様々な経験や失敗を重ねる中から、創意工夫で新しいモノを生み出す強さを持った人達だそうです。
単純に二つに分けることは危険ですが、ここでは分かりやすくするためにそのように示したことをご理解ください。 社会が効率や生産性を求めていれば、アカデミックスマートの環境が多くなるのは必然でしょう。
サッカーも同様です。
選手達の知識が豊富になってくれば、数字で物事を捉えた方が理解しやすくなります。
そうなれば優先順位を考えて、データを基に失敗しない行動を起こす傾向がどうしても強くなってきます。
そうなると挑戦が減り、失敗から学ぶ経験も積まないままに大人になってしまいます。
それでも、ある程度のレベルや短期的には強いチームの一員にはなれると思いますが、 違う文化、違う環境、高いレベルでは、挑戦や失敗に馴れていない多くの選手達が順応できなくなってしまうと感じます。
教わることが当たり前となり、指導者の評価に合わせてしまうことに馴染んでしまい、気がついたときには個性をなくし、牙が抜かれた状態になっているでしょう。
そんな選手達が本当にトップレベルで通用するのでしょうか。
育成年代こそ、本能を磨いて欲しいと思います。
先日、友人から質問されました。
「得点が取れる選手をどうやったら育てられるのですか」と。
「わかりません」としか答えられませんでした。
正直、私も知りたいことであり、指導者の末端である私が偉そうに語れることではありません。
もしかしたらサッカー界の永遠のテーマかもしれません。
それでも、百歩譲って、ひとつだけ言えるとしたら、 育てるという発想ではなく、自分で思考し創造できるように導くことかと思います。
すなわち、ストリートスマートの人間が育つ土壌を作る事が必要だと思っています。
もう少し深く踏み込めば、これからはアカデミック ストリート スマートの環境が必要であると感じます。
グローバルな環境があり、高い教育が受けられる中、一方的に教わるのではなく、選手達が様々な経験や、失敗を恐れずに挑戦し、試行錯誤を繰り返すことが日常にある環境です。
それがサッカーだけの人工的な狭い箱の中で作られるのではなく、社会と繋がっていることが必要だと思います。
いずれは得点が取れる選手が生まれることを信じ、「いい仕事」ができる選手が出現する土壌を作っていくのが私達の役目であると思っています。
汚染された土壌からは新鮮な食物が育たないのと同様に、悪い土壌からは「いい仕事」ができる選手は絶対に出現しないからです。
良い土壌を作るには時間と労力がかかるでしょう。
あと、試行錯誤と情熱が永遠に必要となってくるでしょう。
そこには間違いなく良い果実が生まれてくるのは想像ができます。
ワインの世界ではボルドーワインは世界最高と言われています。
その中でも最高の格付け評価のあるシャトーペトリュスの産地であるボムロール村は人口わずか23.000人の小さな村だそうです。
さらにボムロール村のリブルヌ地区の760ヘクタールのワインは希少価値で取引されているそうです。
私達指導者が挑戦する「いい仕事」とは、 サッカー選手として「いい仕事」をして、引退しても自分に誇りを持った「いい仕事」を一生やり続けている人間が育つ土壌を作り続ける事だと思います。
リブルヌ村の方々のように雨の日も風の日も何年もワイン造りに誇りを持って耕し続ける事だと思います。
高校生の皆さん。
自分に誇りを持てる「いい仕事」を見つけてください。
本物の頭がいい人になってください。
本物の頭がいい人とは、心が豊かな人であり、心を耕し続けられる人だと思います。
「環境は思いから生まれるものである」。ジェームス・アレン
